ヘルマン・ニッチュ「Untitled」
2022/7/23 - 7/30

ヘルマン・ニッチュ「Untitled」

Hermann Nitsch
acrylic on burlap / 160×100 / 2009
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追悼、ヘルマン・ニッチュ

血を模したであろう朱殷の絵具が画面全体に撒き散らされている。しかしこの作品は、スプラッター映画のような凄惨さを長調するものではなく、どこかシンボリックな宗教的意味合いを持っているようにも見える。この作品は我々が心の中でさえ軽薄に作品と向き合うことを許さず、多くの人が神社や教会などで暴挙を働くと信じてもいない神罰が下る気がしてしまうのと同様、この世の埒外に保険をかけるかのように固唾を呑むしか出来えぬような格調を持って鑑賞者に屹立している。

乾いて固まった血の上に鮮血が流れ込むかのように作り出された重層的な血のレイヤーは我々に幻想的な非現実を突き付ける。鮮烈なモチーフに対して牧歌的な質感を持つ麻布を用いることで奇妙な生々しさが現前する。牛や豚と共に暮らし食べる田園の人々が持つ死生観が、この一枚の絵画に映し出されているようでもある。