髙橋銑「Cast and Rot No.14」
2023/1/6 - 1/21

髙橋銑「Cast and Rot No.14」

Sen Takahashi
carrot, Hi-mic1080, ligroin, lime sulfur mixture, iron, wood, paint / H variable xW4.5xD105 / 2021
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腐食しない人参、固定された人参、生き続ける人参、食べられない人参。おそらく美味しくない。

ブロンズ彫刻の保存技法をそのまま人参に用いた「Cast and Rot」シリーズの内の一作。

この人参は上記の方法によりとても腐りにくいらしい。それを知った上で作品を見てみるとダミアン・ハーストがホルマリン漬けやダイヤ塗れの骸骨で提示した「生や死の保存、価値付け」のようなテーマをダミアンの広告的な派手さとは対照的にミニマルに表しているように見える。しかしこのシリーズに使われる人参はスーパー等、安価に手に入る人参を用いるなど品質に個体差があり、運が悪いと保存処置をせずにいる場合、環境や人参の品質の影響で2年ほどでカビが生えたり、虫が来たりするケースもあるらしい。らしいというのはまだこの作品シリーズを作り始めて間もないためであるが、作家自身がステートメントでそのように語っているのだ。上記のようなテーマなら普通は『永遠』や、ちょっと弱腰に『半永久的』などの言葉を加えそうなものだが、いずれ朽ちるものとして作家自身が語るのである。

髙橋銑の生い立ちは特殊だ。父が彫刻修復の専門家であり、その手伝いをすることが彼の芸術活動における原点となっている。事物に流れる時間を止め、巻き戻す。この修復に対する考え方がこの作品にも表れているのかもしれない

修復や保存は作品を後世に残すため、もしくは作家の意図が劣化により損なわれないよう行われる。そもそも保存に優れるか否かで素材選びが行われる面もある。石や金属を用いた作品が紀元前の物まで現代に残されていることは素材選びにおいて一つの保証になるし、絵画において紙よりキャンバスを支持体に用いるほうが作品の値段として高く扱われる理由は、600年以上前の作品が今も状態良く現存しているという事実からである。もちろん素材が多様化し、情報が保存できる現代においてはその意味が徐々に薄れてきてはいるが、保存できるか否かという点は美術的価値が見出される際にかなり大きな役割を負っているのだ。

その点において屋外に置かれることさえあるブロンズは最も劣化しにくい素材の一つだろう。とはいえ管理を怠ったブロンズはサビていく。この作品はその保存方法をそのまま人参に用いたのだが、これはブロンズ作品のような長命の作品が抱える諸行無常のプロセスを人参に代替し短縮化することで保存、修復という作業、永遠の美という理想論に近づけるための努力を人に肌感覚で体感させる機能を持っているとも言える。または修復される際に長期保存という目的のためには他人の手が加わってしまうという事実を突きつけているのかもしれない。

食物としては100kcalにも充たなかったであろうこの人参は、否応なく意味を持ってしまい、思考させることで我々のエネルギーを逆に奪い続けている。

 

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LEESAYA(Tokyo)