2023. 9. 16 ‐ 10. 1

大谷陽一郎 Yoichiro Otani 「AmE」

 

この度ボヘミアンズ・ギルド・ケージでは大谷陽一郎による個展を開催いたします。

活字による視覚詩の歴史、萩原恭次郎や新国誠一の系譜を自覚的に進み、それを更新しようと試みる大谷陽一郎。読みやすいように規格化された活字を扱うことはレディ・メイドの感覚に近いと大谷は語ります。書道のように文字自体の美しさを示すことが目標では無く、あくまで読み物として日常的に使用される活字を異なる視点から捉え直し、我々に指し示そうとするのです。

今展において大谷は、雨をモチーフとした、《ki/u》というタイトルを持つ作品群を展示いたします。UV インクプリンターという、紙だけでなく凹凸の上からのプリントを可能にする印刷方法を用いて、アクリル絵具 やメディウム などがすでに塗られているキャンバスの上に印字し、更にその上からペインティングによる調整を施すことで制作されるこの作品群。神仏に降雨を祈る雨乞いを意味する「祈雨」、長い日照りが続いたあとに降る雨を示す 「喜雨」 、鬼のしわざかと思われるような並外れた雨を示す 「鬼雨」 、また時には雨の枠を外れて心の壮大さや度量を示す「気宇」など、「キ」と「ウ」の発音にはさまざまな同音異義語が存在します。大谷はこの発音を持つ漢字を約50種ほど用い、自身のデザインした雨のイメージを形作るようにランダムに画面へ配置することでこの作品群を制作しています。

大谷は単体で意味を成し、意味する形を想起させる漢字の特性を利用しようと試みます。鑑賞者が前後左右に散らばり雨の形状を形作るこれらの漢字を目で追うとき、画面の凹凸や文字のフォント、サイズの違いに導かれるように、近辺の漢字と繋ぎ合わせた熟語としての意味合いが見出されてくるようです。また時には新たな意味合いを持つ造語を鑑賞者は無意識に作り出してしまうでしょう。テキストを読み解こうとするこの終わりなき循環が繰り返されることで、委ねられた詩体験へと鑑賞者は誘われるのです。

主に書籍上で展開されてきた活字による視覚詩という表現方法を、絵画の側面から展開する大谷陽一郎の詩表現を是非ご高覧ください。

 

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Bohemian’s Guild Cage

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