2023. 8. 26 ‐ 9. 10

鈴木知佳 Chika Suzuki 「"pseudomorf of modern fossil after earth" 「現代の化石ー地球の仮晶」」

鈴木知佳の作品は我々が知らず知らずに抱いてしまう人間中心主義の視点を少し取り払い、地球規模の視点から眼前の状態を我々に指し示します。

「自然」の対義語は「人工」。「自然」を人の手が加わっていない状態と定義した場合にこの対義語は成り立ちます。これは人の視点から人類的なものとそうではないものとを区分するための言葉ですが、鈴木知佳は人類視点ではない、より大局的な第三者の目線から自然を捉えるかのようです。どこかで有害な物質を発しながら燃やされ溶けたプラスチックが、海に捨てられ砂や木を巻き込みながら冷えて固まり海岸へと流れ着いた漂流物。彼女はこれを「no name」と名付けます。現代の感覚では環境問題を想起させるこの「no name」を中心に展開される本展。彼女はこの「no name」を介することで鑑賞者の視点、論点を徐々にズラシていきます。写真という実物の大きさが測りえないメディアを介することで近未来の自然風景かのようなSF的錯覚を鑑賞者に引き起こし、時にはアクリルをそっくり漂流物の形に掘りおこすことで不在と実在、物体に流れる時間の流れを想起させます。また、ある地点で掬い上げた砂の中に混じる、プラスチックやガラス等の人工物をそれぞれ識別し、色ごとに並べる作品ではその土地の記憶に迫ると共に、普段我々が自然物と認識するものの中に混在している人工物の存在を認識させ、それらを区切ることの困難さを改めて示されるようです。

多様な手法で『ある一つの事物』に対する多角的な視点を提示する鈴木知佳の作品世界を是非ご高覧ください。

 

 

ステートメント

「仮晶」とは鉱物の結晶形が保たれたまま中身が別の鉱物によって置き換わることで、置き換わった鉱物が本来はありえない外形をとる現象です。 長い年月をかけて結晶化した鉱物かのような「no name 」と名付けたそれは、島の人々によって拾い集められ燃やされた漂流物の残骸のなかにうまれた形でした。 島に流れ着く漂流ごみの大半はプラスチックの日用品で、カラフルな極彩色のまま燃やされ溶けて流れて流木や骨や珊瑚や砂、触れた全てをのみ込んで冷えて固まって陽に波に晒され、色褪せ触れると崩れるほどに風化したそれは、山や大地の縮景の様で、そこにひとつの山が生まれて消えてゆくようなおおきな自然の力が作用していることを感じました。プラスチックという人の営みが、人の手を離れ再び自然のへと還ってゆく流れの内に僅かに残る痕跡として、それは、 “現代の化石” でした。 「Plastic Landscape」では、「no name 」を風景として写すことで、人工物の経てきた時間を自然風景の経てきた時間の内に定着する試みでもあります。風化したプラスチックの塊が遠い山々や険しい岩肌として見えてくるとき、自然や山々が畏怖と畏敬の念をもって眼に映っていた古来と地続きの現代、そして未だ見ぬ未来とをいつかみた光景として眺めているかのような眼差しが生まれてくるように想えます。そこにうつっているものは、風景の外形をとったまま物質としては置き換わってゆく「地球の仮晶」といえるのかもしれません。 「名付けられた色の終わり 名付けられない色のはじまり」では、緯度経度の示された路傍・海岸等で採取した砂から、1mm 足らずの砂粒と化したプラスチックやガラス、陶片等かつて何かだったものの欠片が識別され、色ごとに並べられます。 「空白のドローイング」では漂流物の形に彫り貫かれた空白により、失われてゆく事物が在った分の領域が、いつか満たされる時がくる空白として、失われてゆく漂流物の色の絵の具とともに提示されます。等、各シリーズの新作を中心に、森羅万象を巡る人と自然の往還を体現するファウンドオブジェクトとして ”現代の化石” を ”地球の仮晶” として、みることを試みています。

 

■プロフィール

1982 年 東京都生まれ。
2009 年 東京造形大学大学院造形研究科造形専攻美術研究領域修了。

写す/映す/遷すことを通して存在の起源を辿り、事物が体現している時 ―生成と消滅の繰り返しの内に在る、今― に臨もうと試みる。

主な展覧会に「KOSHIKI ART PROJECT」(甑島、鹿児島、2007~12,16,17、各夏に滞在制作。自然と人の営みが交わる時点に目を向けフィールドワークを通し制作を重ねる)「ここに在る不在」(gallery ON THE HILL、東京、2017)「 Monologue of the Blank 」(ex-chamber museum、東京、2019)「SICF20」倉元美津留審査員賞受賞(スパイラル、東京、2019)「時 点」 (rin art association、群馬、2021) 「3331 ART FAIR 2022 / Selection-GYM -ex-chamber museum 推薦」コレクターズ・プライズ 川村嘉久[川村文化芸術振興財団賞]受賞(3331 Arts Chiyoda、東京、 2022)など。

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